子どもが自転車で歩行者とぶつかり、相手にけがをさせてしまった。そのとき、未成年であるという理由だけで損害賠償の責任がなくなるわけではありません。子ども本人が責任を負う場合もあれば、責任能力のない子どもに代わって、親などの監督義務者が責任を負う場合もあります。誰が責任を負うかは、民法の定めと事故の事情によって変わります。
この記事では、民法の条文と兵庫県の条例をもとに、親が負う責任の仕組みを説明します。あわせて、保護者に求められる保険への加入と、事故が起きた直後に連絡する順番も紹介します。法令と資料は2026年10月17日に確認しました。個別の事故で誰がいくら負担するかは事情によって変わるため、実際の対応は保険会社や弁護士に相談してください。
子どもの自転車用ヘルメットをCYCLE iで探す
兵庫県の条例は、保護者に対し、監護する幼児・児童が道路で自転車に乗るときに、ヘルメットなどを使わせるよう努めることを求めています。子どもに合うヘルメットを探す際は、商品のサイズや対象年齢の目安を確かめましょう。
子どもが起こした事故でも損害賠償の責任は生じる
民法709条は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、それによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。自転車で歩行者にけがをさせた場合も、この条文が損害賠償の基本になります。運転していたのが子どもでも、事故の相手に損害が生じる点は変わりません。
日本損害保険協会の小冊子「知っていますか? 自転車の事故」は、未成年者が起こした事故でも高額の賠償が命じられた事例を紹介しています。小学生向けの冊子でも、保護者が責任を問われることへの注意を促しています。ただし、子ども本人や保護者が必ず責任を負うわけではありません。民法は、子どもの責任能力や監督義務者の対応などに応じて、責任を負う条件を定めています。
同じ小冊子は、相手を死傷させた場合の刑事上の責任や、被害者に謝罪するといった道義的な責任にも触れています。この記事では、そのうちお金の負担につながる民事上の責任を中心に扱います。
子どもに責任能力がない場合は、親などの監督義務者が責任を問われることがある
民法712条は、未成年者が他人に損害を加えた場合でも、自分の行為の責任を理解できるだけの知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わないと定めています。条文は、この判断を年齢ではなく「責任を弁識するに足りる知能」で表しています。何歳から責任能力があるかを示した数字は、条文には書かれていません。
子どもが712条によって責任を負わない場合について、民法714条1項は、その子どもを監督する法定の義務を負う者が、子どもが第三者に加えた損害を賠償する責任を負うとしています。親権を行う親は、子どもを監護・教育する義務を負う監督義務者です。ただし同じ項のただし書は、監督義務を怠らなかったとき、または義務を怠らなくても損害が生じたであろうときは責任を負わないとしています。
子どもに責任能力がある場合は、故意・過失などの要件を満たせば、子ども本人が民法709条の責任を負います。その場合も、親自身の監督義務違反と損害の発生に相当因果関係が認められるなど、709条の要件を満たすときは親が責任を負うことがあります。「親は必ず払う」「中学生なら親は関係ない」と年齢だけで決められるものではありません。
小学生の事故で約9,500万円の賠償が命じられた例がある
子どもの自転車事故で高額の賠償が命じられた例として、よく紹介されるのが神戸地方裁判所の2013年(平成25年)7月4日の判決です。日本損害保険協会の資料では、男子小学生(11歳)が夜間に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路で歩行中の女性(62歳)と正面衝突し、女性は頭蓋骨骨折などで意識が戻らない状態になったと紹介されています。兵庫県の資料では、坂道を下ってきた小学5年の少年の自転車が、歩行中の62歳の女性と衝突した事例として載っています。
| 資料 | 記載されている金額 | 金額の注記 |
|---|---|---|
| 日本損害保険協会「知っていますか? 自転車の事故」「自転車事故への備えに関するチラシ」 | 9,521万円(判決認容額) | 判決文で支払いを命じられた金額の概算額。上訴などにより実際に支払う金額とは異なる可能性がある |
| 兵庫県「自転車事故による高額賠償事例」 | 9,520万円(賠償金額) | 注記なし |
※同じ判決について、資料には9,521万円と9,520万円の2通りの表記があるため、ここでは「約9,500万円」としています。判決原本の金額と適用条文は確認できていません。両資料も親の責任を認めた根拠条文を示していないため、この事例を民法714条の適用例と断定することはできません。
金額の細かな違いよりも大切なのは、小学生の事故でも賠償額が1億円近くになりうるという点です。子どもの年齢や「わざとではない」という事情だけで、負担が小さく済むとは限りません。
兵庫県では、保護者に子どもの自転車保険への加入義務がある
兵庫県の「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」13条2項は、保護者は、監護する未成年者が自転車を利用するときは、その利用に係る自転車損害賠償保険等に加入しなければならないと定めています。ただし、保護者以外の人によって加入の措置が取られている場合は、この限りではありません。条例でいう自転車損害賠償保険等は、自転車事故で他人の生命や身体に生じた損害を補う保険や共済のことです。
県のQ&Aは、学校によっては単位PTAごとに生徒全員で一括して加入している場合もあるため、契約内容を確かめるよう案内しています。家族の保険で子どもが対象になっているか、学校の保険で自転車事故の賠償まで補償されるかを、保険証券や加入案内で確認しましょう。加入義務の対象や確かめ方は、条例を詳しく扱った記事にまとめています。
賠償への備えは個人賠償責任保険で、補償の対象と金額を確かめる
日本損害保険協会は、自転車事故による損害賠償の責任は「個人賠償責任保険」で、自分自身のけがは「傷害保険」で補償されると説明しています。自動車と違い、自転車には被害者を救済するための強制保険(自賠責保険)がありません。子どもが加害者になったときの備えとしては、個人賠償責任保険を確かめることになります。
同協会の小冊子は、すでに加入している場合も、賠償責任の補償額や示談交渉サービスの有無、保険期間が切れていないかを確認するよう勧めています。自動車保険や火災保険の特約として付いている場合もあり、家族のだれかがすでに加入していると補償が重なることもあります。新たに入る前に、補償の対象となる人(被保険者)の範囲に子どもが含まれているかを、保険会社や代理店に確かめてください。
特約で足りるかどうかの確かめ方と、自転車保険の補償内容は、それぞれ次の記事で詳しく紹介しています。
事故が起きたら、けが人の救護と警察への連絡を先にする
事故を起こしたら、まず運転をやめ、けが人の救護と道路上の危険を防ぐ措置をとり、警察に報告します。日本損害保険協会の小冊子は、救護から保険会社への連絡までを次の手順で示しています。子どもから連絡を受けた保護者も、救護と警察への連絡が行われているかを確認しましょう。
- けが人がいる場合は手当てを最優先にし、まず救急車を呼ぶ
- 二次災害を防ぐため、周囲の安全を確認し、安全に行える範囲で自転車を路肩など通行の妨げにならない場所へ移す
- 落ち着いて警察に連絡する
- 相手の名前・住所・連絡先を確かめ、事故の状況をメモする
- 事故の状況をただちに損害保険会社または代理店に連絡する
同じ小冊子は、警察への届出がないと交通事故証明書が発行されず、保険金が支払われない場合があること、道路交通法で警察への報告義務が定められていることも注意しています。その場で相手に金額を約束せず、保険会社に連絡してから話を進めましょう。交通事故証明書の取り方は、別の記事で説明しています。
子どもと一緒に、事故を起こさない乗り方を確かめておく
兵庫県の条例8条は、保護者に対し、子どもが自転車を安全に利用するための教育に努めることを求めています。11条は幼児・児童にヘルメットなどを使わせる努力義務を定め、12条は監護する未成年者の自転車に必要な点検整備を行うようにするものとしています。県のQ&Aは、子どもには点検整備の知識が十分にないと考えられるため、保護者が代わって行うよう案内しています。
上で紹介した事故例は、夜間の走行や坂道を下る場面で起きています。暗くなってからはライトをつける、下り坂ではスピードを出しすぎない、歩行者の近くでは止まれる速さで走るといった基本を、家族で話し合っておきましょう。事故全般を防ぐ乗り方と、事故後の対応は次の記事も参考になります。
よくある質問
子どもが自転車事故を起こしたら、親が必ず賠償しなければなりませんか?
必ずとは言えません。子どもに責任能力がない場合、民法714条により親などの監督義務者が責任を負いますが、監督義務を怠らなかったときなどは責任を負わないというただし書があります。子どもに責任能力がある場合は子ども本人の責任が中心になります。実際の負担は事故の状況によって判断されるため、保険会社や弁護士に相談してください。
学校で入っている保険があれば、家で自転車保険に入らなくてもよいですか?
兵庫県の条例は、保護者以外の人によって加入の措置が取られている場合は保護者の加入義務の対象外としています。県も、学校によってはPTAで一括加入している場合があるとしています。ただし、その保険が自転車事故で他人にけがをさせたときの賠償を補償しているか、補償額や期間が十分かは、加入案内や保険証券で確かめてください。
まとめ
子どもが自転車事故を起こした場合も、損害賠償の責任が生じることがあります。子どもに責任能力がないときは、民法714条により親などの監督義務者が責任を負うことがあります。小学生の事故で約9,500万円の賠償が命じられた例もあり(金額は資料により9,521万円と9,520万円の表記があります)、兵庫県では保護者に子どもの自転車保険への加入が義務づけられています。
まずは家族の保険や学校の保険で、子どもの自転車事故の賠償が補償されているかを確かめましょう。そのうえで、ヘルメットの着用や点検整備、夜道や坂道での走り方を子どもと一緒に見直し、事故の防止と被害の軽減に備えましょう。
参考資料
- e-Gov法令検索「民法」(第709条、第712条、第714条。2026年10月17日確認)
- 日本損害保険協会「自転車事故と保険」(2026年10月17日確認)
- 日本損害保険協会「知っていますか? 自転車の事故~安全な乗り方と事故への備え~」(PDF)(2026年8月版。p.9 加害事故例、p.10 保険、p.11 事故後の手順。2026年10月17日確認)
- 日本損害保険協会「自転車事故への備えに関するチラシ」(PDF)(判決認容額の注記。2026年10月17日確認)
- 日本損害保険協会「小学生のための自転車安全教室~たのしくまなぶルールやマナー~」(PDF)(2026年10月17日確認)
- 兵庫県「「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」について」(Q&A A2・A3。2026年10月17日確認)
- 兵庫県「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」条例本文(PDF)(第8条、第11条、第12条、第13条。2026年10月17日確認)
- 兵庫県「自転車事故による高額賠償事例」(PDF)(2026年10月17日確認)
- CYCLE i「ヘルメット」(2026年10月26日確認)
- 裁判所「京都地方裁判所 平成18年3月31日判決(平成16年(ワ)第1910号 損害賠償請求事件)」(PDF)(2026年10月26日確認)
- 兵庫県警察「自転車の交通ルールハンドブック(高校生以上用)」(PDF)(2026年10月26日確認)
